きのう(2023年9月5日)行われた、東京都杉並区長・岸本聡子氏の記者会見をめぐって、フリーランスライターの畠山理仁さんのツイート(ポスト)が注目を集めている。9月11日に始まる杉並区議会の第3回定例会を前に、一般会計補正予算などについて説明する会見だった。
事実関係のみを話すと、筆者は2023年5月の会見を初取材し、7月会見の案内は届き参加したが、今回については届いておらず、取材申込もしなかった。5月と7月の会見要録を見ればわかるが、どちらの筆者質問も「要望」や「私見」を述べたものではないと考えている。過去事例や周辺自治体を引き合いに、イデオロギーに寄らぬ「一般論」を問うたつもりだ。
7月の前回会見では、自転車用ヘルメットの助成金について、取材陣で唯一質問した。岸本区長は当時、「まだ杉並区では実施はしていませんが、ただ今検討中」としていたが、きのう発表された一般会計補正予算には盛り込まれている。つまり取材に対する「具体的な回答」が示された形となり、質問者が会見場でそれを聞く権利があっても不思議ではない。
そのため、最初は案内状の送信忘れの可能性もあると考えていた。いまもそう思いたいが、背景が表に出てしまった以上、疑心暗鬼にならざるを得ない。行政に「もしかして出禁なんですか?」と確認するのは簡単だが、もし招かれざる客なのだとしたら、聞くこと自体が負担をかけてしまう。それはできるだけ避けたい。同情していただける方にも、この点についてはお願いしたい。
仮に送信ミスじゃないとして、ひとつ心当たりがあるとすれば、筆者がSNS以外では発信していない点だ。もし「取材には必ず、なんらかの成果物があるものだ」と考えているのなら、わずかツイッター(X)の140文字では「報道」と見なされないのかもしれない。しかし「メディアか、否か」の軸であれば、どうだろう。
5月の記者会見で、筆者は「記者会見の定例化」について質問した。岸本区長は当時、定例化の具体的な計画はないとしながら、「各社取材を私もできる範囲で受け入れていますし、遠慮なく申し込んでいただければ」と発言。加えて「ツイッター活動も一生懸命やってますので、そういったところでちょっと補完できればいいかな」と話していた。
この回答を見る限り、個人によるSNSもまた(少なくとも区長自身は)企業運営のメディアと比肩すると認識しているのではないか——と考えると、これはメディアの選別基準とはならず、筆者の杞憂に過ぎないことになる。
すべては疑心暗鬼だ。公平性を担保するのであれば、いっそ新聞もテレビもフリーランスも、横並びにしてはどうか。「今回で一斉連絡は終了です。次回以降につきましては、どのメディア様も、公式サイトもしくはSNSをご確認のうえ、各自お申し込みください」と通知すればよいだけの話だ。このままでは「記者クラブに逆戻りか」とツッコミが入りかねない。
——などと、ここまで「ネットメディア研究家」としての見解を話してきたが、私の立ち位置が複雑なのは「杉並区政に挑んだ人」でもあるからだ。そちらの角度から、ちょっぴり「私見」を述べてみたい。
筆者は4月の杉並区議選に「政治をやわらかくする、いまどきの選択肢」を掲げてチャレンジした。候補者69人中68位で落選(定数48)となったが、組織も資金も知名度もない「たぶん無所属」が、663票も獲得できたのは「カタい現状」をなんとかしたい杉並区民が、それなりにいたからだろう。
やわらかくするために、私は「ジャーナリスト」や「政治活動家」ではなく、できるだけ「ウォッチャー」の立場を取ってきた。主義主張を前面に押し出すのは、自分の性格としても向いてない。目の前で起きている事象を、なるべくフラットに受け止め、かみ砕いて伝える。そこに使命を感じている。
あらゆる物事は「餅は餅屋」。情報でいえば「深掘る人」と「読み解く人」が、適材適所で支え合うのが大切だ。たまに両方うまいスーパーテクニシャンもいるが、たいていはどちらかで、私は後者側の人間だと自認している。その点、このところ「深掘り」側に、ちょっと首をつっこみすぎたのかもしれない。
私自身が、どれだけ中立的だと考えていても、「落選者による質問」である以上は、政治的意図を持った「要望」と捉えられてもおかしくない。考えすぎなのかもしれないが、区議選当時より増してギスギス感がはびこる、いまの杉並では、想定外の文脈を帯びる可能性も排除できない。だとすれば「なるべくフラットで、やわらかい」と思える対応をとるのが、私にとっても、周囲にとってもベストなのではないだろうか。
以上の事情もあり、区政取材については当面、ほどよい距離を置きながら、進めて行こうかと考えています。もちろん、ひとりの在野の区民としては、できることに全力で取り組みます。信頼できる諸先輩方をはじめ、思いを同じくする皆さんとともに、「欲しい時に、必要な情報を手に入れられる杉並区」を目指していく所存です。