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まえがき「時代を伝え、次代をつくる」【杉並区議選・匿名候補者Vol.1】

杉並区政

 時代を伝え、次代をつくる。

 進路に悩んだ高校時代、自分の現在地を確認しながら、ふと思いついたフレーズだ。卒業後、私は「宅浪」と名乗るニート生活を送ったあと、大学へと進学。この「座右の銘」を胸に、ネットメディア業界へと進んだ。半年前にフリーランスとして独立してもなお、初心は忘れていない……と思っていた。

 しかし、三十路の折り返しを前に、十数年前のモヤモヤがよみがえっている。経験上、モヤモヤは形に残さないと、先に進めない性格だ。思えば、高校の卒業式で(数日後に無職となるのに)答辞を読んだときの思いも、書き記すことで乗り越えられた。とにかく始めなきゃと、キーボードに向かうことにした。

 私は2023年4月24日、東京都・杉並区議会議員選挙で落選した。

 結果がわかってから10日。「まずは今回の経験をまとめたい」とライター業を休んでいたのだが、それにしても気が乗らない。想像以上に心理的な影響が大きいのだ。悲しみや悔しさというより、ひと仕事終えた感覚。今後少しずつ触れるが、ここ数か月は仕事も休んでいたので、しばらく無収入。「ひと仕事」どころか、貯蓄を削って、生活費を捻出する日々なのに……。

 今後もし、政治家としての再チャレンジがあるとすれば、こんな弱みを見せるのは得策ではない。でも、ここで筆を止めてしまうと、もう「書く仕事」には戻れない気がする。いくらツラいからって、みずからの経験から目をそむけて、なにが「時代を伝え、次代をつくる」だ。立候補時のプロフィールも、職業を「コラムニスト」としてしまった。書くしかない。

 当初は、ある程度のボリュームにまとまってから、章ごとに連載する計画を立てていた。でも、いまの精神状況じゃ、いつまでも公開できない。この性格と30年以上付き合っているから、なんとなくの行動パターンは理解しているつもりだ。

 連載の仮題は『匿名候補者〜ネット選挙10年目「独自の戦い」』。半年ほど前から、ぼんやりと温めていたネーミングだ。私こと「きどゆずる」は、区議選告示の2か月前まで、実名を出さず活動していた。加えて、街頭演説などのリアル活動は、選挙期間中の1週間のみ。私のような動きを、よくメディアは「泡沫(ほうまつ)候補」と呼び、およそ議席争いに絡まないであろう「独自の戦い」と、小馬鹿にした表現で戦況を伝える。そこへ一石投じたいとの思いをタイトルに込めた。加えて今春、公職選挙法改正で「ネット選挙」が解禁されてから10周年を迎える。

 今回、きどゆずる陣営は「ウェブ主体で活動する」「政策重視で戦う」「誰でも再現性のある」の3点を貫いた。これだけは、ゆずるだけど、ゆずれない……(よかった、ちょっとダジャレを言える余裕が出てきた)。朝晩の駅立ち・辻立ち(駅前や路上での演説やあいさつ)も、ビラのポスティングもしない。そもそも2か月前まで匿名だったので、物理的に難しかったのだが、それもふくめて「従来型選挙への挑戦」の構図を作れたのは、結果として良かった。思いを託していただいた662人(私をふくめて663票)のうち、この姿勢に共感いただいた方は、それなりに多いはずだ。

 匿名活動が長かったのは、「政策で評価して欲しい」との思いに加えて、個人的な事情が強い。今後も触れる機会があるだろうが、メディア業界と選挙の相性は、非常に良くない。ちょっとでも「政治色」が付くと、取引が途絶えてしまう。そのリスクを極力軽くすることが、働きながら政治活動を行ううえで、そして「もしも」の時に業界へ戻れるために、必須条件だった。

 どこかの政党から、公認や推薦を受けなかったのも、同様の理由からだ。最終的には「たぶん無所属」なる政治団体を立ち上げて、そこの公認候補として立候補したが、その構成員は代表者である自分ひとりなので、実情は「完全無所属」。政策に共感できる国政政党や地域政党はあった。匿名活動中、実際に「中の人」からご連絡いただく機会もあったが、信念を貫くために、今回は距離を置くこととした。

 落選後、ありがたいことに周囲からは「4年後の区議選には出るの」と聞かれることも多いが、あまり去就について話せないのは、こうした背景がある——などと書くと、「思わせぶりだけど、実質出馬表明だろ」と受け取られるので、きっぱり明言しておきたい。

 これからの展開は、今回の選挙戦を書き尽くしてからじゃないと、とても決められそうにない。

 反省点は多々あるし、ふたたび挑むとなれば、やりたいアプローチもある。でも、議員バッジをつけなくても、今回の原動力となった「政治をやわらかくしたい」思いは、それなりに実現できるのではないかとの期待も、私に託された663票から感じた。

 どこまで濃く、そして深く描けるかはわからないが、まずは在野からリアルを届けたい。

 時代を伝え、次代をつくる。「いまどきの選挙」を伝え、「未来の選挙」をつくる。

 「まえがき」に代えて、いまの思いを書き始めたら、次から次へと言葉が浮かんでくる。

 よかった、まだ筆は折らなくてよさそうだ。

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